青年たちは抗う。
己に与えられた"天命"に―――。
RUIN-滅亡-
亡国の王子クロと不思議な白髪の少年シロの"滅亡"に抗うお話。
「俺だけ…生き延びてしまった…」人々で賑わう昼の街、実体をもたぬ少年は今日も闇に紛れて息をひそめる。1人必死で隣国へ逃げてきた。国は…家族は…どうなってしまったのか。
「こんなところでなにしてるの?」
白髪の少年が俺に向かって声をかけてきた。思わぬ呼びかけに声が出ない。どうして俺に気が付いた?
「ぼく、ひとりなんだ。きみも…ひとりだよね。身体はどうしたの?」
ズカズカと人の心に踏み込んでくる奴だ。でも、この苦しさをひとりで抱えるのはもう限界だった。
「そっか。じゃあさ、ぼくといっしょにきみの家族を探しに行こうよ。もしかしたらみんな無事かもしれないよ。」
そう簡単に言うな。俺は闇の中でしか生きられないんだよ。
「あ、きみ光に当たったら消えちゃうの?じゃあぼくの身体、半分あげる。おいで―――。」
よほど波長が合わない限り、1つの身体の中に2つの精神を入れると身体は徐々に崩壊していくはずだ。コイツは馬鹿なのか?考え事をしている間に、吸い込まれるように白髪の少年の身体の中に入ってしまった。
―――
目を開けるとそこは現実離れした光景が広がっていた。白髪の少年の精神世界だ。
「いらっしゃい。自由にしていいからね。」
思い出やトラウマがあればあるほど、精神世界にはそれに関する物体が表現される。
白髪の少年の精神世界には―――何もなかった。
CURSE-呪縛-
不死の呪いにかかった弟ルートヴィヒと弟を支える兄アルフレートの"呪縛"に抗うお話。
「兄さん、俺は大丈夫だ。兄さんがいなくてもうまくやるさ。」
自分のために俺の時間を使うことを申し訳なく思ってのことだろう。ルートはことあるごとに心配いらないと言う。
正直俺は弟が心配だ。なんせ不死の呪いという、普通だったら気が狂ってしまう呪いにかかっているのだから。
この呪いはある宗教では天啓と呼ばれており、天啓を得た者は神の遣いとして世界の終わりを記録する使命があるらしい。
そのために不死なのだと。神様が自分で見りゃいいのに。
「お~、それ前にも聞いたぞ~。何度も言ってるが、俺はお前と旅したくてしてるんだ。
いっしょに探したほうが早く見つかるかもだろ?呪いを解く方法。」
…とは言うものの、この呪いには解く方法はないと言われている。
それでも俺は、お前を見捨てない。お前とした約束を果たすまで…何があっても、絶対に…。
EXTINCTION-絶滅
竜人族の少女エリューと少女を守りたい青年アスティーヴの"絶滅"に抗うお話。
小さな少女が数人の男に囲まれている。おそらくは人攫いだろう。
「お前たち…何をしている…手を放せ。」
声を発した青年は大剣を抜き、鋭い目つきで威嚇すると男たちは逃げて行った。
大丈夫か、そう声をかけるため近づこうとする足が途中でピタリと止まってしまった。
少女の頭から竜の角が生えている。竜人族…。俺が…滅ぼしてしまった種族…。
そんなことを考えているうちに、少女のほうから青年に近寄り、服を掴んできた。
「ありがとう…」
俺が、竜人族に感謝されていいはずがない。頭の中がぐるぐるする。
逃げ出したくなり、何も言わずにその場から立ち去ろうとするが、少女が服を掴んだ手を放そうとしない。
「おなじにおいがする…わたしもいっしょにいっていい…?」
そうか、分かるのか…俺は何人もの竜人族を犠牲にして生まれた…ヒトに無理やり竜人族の遺伝子を組み込んで作られたキメラだ。
逃げ出したかった。だがいつの間にか、俺はこの少女を守らねばならないという気持ちが大きく、逆らえないものとなっていた。
「あぁ…」その一言に少女は笑顔になる。
この少女を…この笑顔を…俺は絶対に守り通す。